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連載「和集合閉集合予想・攻略ノート」 3/3

五角形が強化予想を反証する —— 和集合閉集合予想・攻略ノート(3)

本稿の位置づけ

第3稿。第2稿は、Frankl 予想より強い予想F2'(包含単射版:ある と単射 、が常に存在する)が の全120族と の全4958族で無敗であることを確認し、「強化予想は反例で反証されるのが常」という歴史の教訓に従って、次の一手を反例の探索と定めた。

本稿はその探索の記録である。結果として、反例は出た。強化予想F2'は偽であり、しかも反例の正体は、数学でもっとも親しまれた図形の一つである五角形だった。ただし倒れたのは第2稿で立てた強化版だけである。見つかった反例族でも Frankl 予想そのものは成立しており、45年ものの本体は未解決のまま残る。反証された予想から学べることは多い。解剖と一般則、そして方針の再設定までを行う。


前提知識:探索の準備

0.1 何を探すか

予想F2'の反例とは:和集合閉族 であって、どの元 を選んでも、 を含まない集合たち)から (含む集合たち)への包含単射()が存在しないもの。Hall の結婚定理により、これは「どの にも、 となる部分族 (Hall 違反=ボトルネック)が存在する」ことと同値である。ただし Frankl 予想本体は成立していなければならない(破れていたらそれは世紀の大発見か、まず間違いなくバグである。検証を最優先する)。

0.2 探索の三方面

第2稿で予告したランダム探索を軸に、三方面から探した。(a) ランダム でランダム生成集合の和集合閉包、計約6.8万有効試行。(b) 持ち上げ で正準写像が折れた「困難な28族」に新しい元をランダムに追加して へ拡張。新元を含む生成集合を1〜3個ランダムに作り、元の族と合わせて和集合閉包を取る、という作り方で、28族 × 1族あたり600試行 × 2水準()=33,600試行。(c) 構造化:Fano 平面の直線族・その補族、後述のグラフ辺族たち。


要旨

探索の結果。ランダム探索が3件の反例を出した( で2件、 で1件; は該当なし)。持ち上げ探索も で2件を出した( では0件、Fano は該当なし)。第2稿の全数検証( の120族・ の4958族)では反例が出なかったから、台集合5元が反例の最小サイズである(この点は全数による確定)。

解剖 の反例第1号(16集合)を精査した。(i) 和集合閉性 ✓、(ii) Frankl 本体は余裕で成立(全5元の頻度がすべて の完全対称な正則族)、(iii) しかし全5元で Hall 違反が起きる。パターンは一様で、どの でも「ある2元集合 のフィルター( とその上の3集合、計4集合)に対し、持ち上げ先が3つしかない」()。原因は毎回同じで、 が族に無い(持ち上げ先が一つ欠けている)のに、 の上の3集合の持ち上げ先はちょうど尽きている。持ち上げ先3つに対し持ち上げるべき元が4つあり、鳩の巣原理から少なくとも一つは重複する。除去による極小化も試みたが、一つも削れない(16集合すべてが必要)。

同定。頻度の完全対称性が正体を告げていた。反例第1号は、五角形 (サイクル )の辺集合5本の和集合閉包と厳密に一致する(機械照合)。ここで辺は両端の2頂点からなる集合であり、族の台集合は5つの頂点、族の元は5本の辺から和集合で作れる集合すべてである。内訳は、5本の辺、5本の2辺パス、5枚の4点集合、全体集合の計16。

一般則(機械で確立)。ではサイクルが悪いのか。 から まで、および対照群を検査した:

生成グラフF2'Frankl
(三角形)・成立
全て反例✓(余裕で成立)
(完全グラフ)・パス ・スター成立
Petersen グラフ(内周5)反例

長さ5以上のサイクルはすべて F2' を反証する。機構も透明である。頂点 から距離2以上の辺 を取ると、 は辺の和(パス)にならないので族に属さず、持ち上げ先が一つ欠ける。一方で のフィルターの持ち上げ先は、一つ上の層でちょうど尽きてしまう。 が無害なのは、すべての辺が の隣まで届いている(遠い辺が存在しない)からである。

皮肉と教訓。これらの反例族は、辺(2元集合)を含む。つまり第2稿の定理F2(b)(二元補題)により Frankl 本体は二行で証明できる、最も易しいクラスの住人である。強化予想は、本体が自明な場所で崩れた。数えること(counting:、これが Frankl)と、構造を保って組み合わせること(matching:包含単射)は、本質的に別の問題である。五角形では counting に4集合分の余裕があるのに、matching は成り立たない。Frankl 予想は counting の問題であり、単射・マッチングの検討はここで打ち切る(文献上の既知性の確認は残課題としてフラグ)。


第一部 探索の記録

1. 統計

方面試行反例
ランダム 28,4132
ランダム 19,5350
ランダム 11,8421
ランダム 7,9380
困難な核(28族)の持ち上げ 16,8000
困難な核(28族)の持ち上げ 16,8002
Fano 直線族・補族20
(第2稿・全数)120+4,9580

持ち上げの行は の内訳である(1族あたり600試行を の両方で走らせた)。ヒット率はランダム で約 、持ち上げ で約 。反例は稀少だが実在する。

持ち上げの2件について言うべきことがある。この2件は、どちらも2元集合(辺)から生成される族で、長さ5のサイクルを含む——第三部で同定する反例第1号とまったく同じ種である(1件は辺の閉包そのもの、もう1件は辺の閉包に を足したもの)。つまり困難28族の延長線上にサイクルは現れる。ただし現れたのは新元を2つ足した の水準だけで、 は16,800試行すべて空振りだった。 の困難族は、それ自体としては反例の芽ではない。台集合を2つ広げたときに初めて、ランダムな追加がサイクルを踏む。

2. 検証の優先順位

反例候補が出た瞬間に最初に行ったのは、Frankl 本体の検証である(0.1 の警告)。3件とも本体は成立した(それどころか頻度 で余裕がある)。持ち上げの2件も同様で、最大頻度は 、いずれも半分を上回る。破れていたのは強化だけである。バグ検査(和集合閉性の全対照合・マッチング算法の既知ケース照合)も通過した。

第二部 解剖:持ち上げ先の不足

3. 反例第1号の全貌

(数字列は集合の略記)。16集合、全元の頻度 での Hall 違反:

。原因は の持ち上げの欠落)である。フィルター(それを含む の全集合)であり、その持ち上げ先はちょうど3つ。持ち上げるべき元4つに対し行き先が3つなので、鳩の巣原理から重複が生じる。同じパターンが全5元で起きる(違反集合の表は機械出力の通り、すべて )。

4. 極小性

16集合から任意の1集合を除くと、和集合閉性が壊れるか、F2' が復活する。つまり除去極小である(貪欲除去の全試行で確認)。この族は無駄なく設計された最小限の反例である。

第三部 同定と一般則:サイクルの遠い辺

5. 五角形との一致

頻度の完全対称(全元 )は頂点推移的な構造を示唆する。照合の結果、反例第1号 サイクル の辺5本の和集合閉包である(機械で集合として厳密一致)。内訳:辺5、2辺パス(3元集合)5、4元集合5(互いに素な辺対の和=各頂点の補集合)、全体1の計16。

6. 一般則と機構

・完全グラフ・パス・スター・Petersen の検査結果は要旨の表の通り。長さ のサイクルはすべて反例になり、内周5の Petersen も同様である。機構を一段丁寧に言う:

  • 頂点 を消すと、 は残りのパス( から を除いた 頂点のパス)の辺族の閉包になる。
  • パスの中央の辺 から距離 )に対し、 を通るパスではない( が隣接しない)ので、 に属さない。持ち上げ先が一つ欠ける。
  • 一方 のフィルター( を含む の集合たち)の持ち上げ先は一つ上の層でちょうど尽きる。Hall 違反が確定する。
  • では全ての辺が の隣接圏内にあり、遠い辺が存在しないため無害。

7. 定理F3(余原子は行儀がよい)

探索の過程で確立した小さな構造定理を記録する:

定理F3 和集合閉族の任意の二つの余原子(最大元 の直下の極大元)の和は である。したがって各元 を欠く余原子は高々一つ

証明 余原子 の和 を真に含むから、極大性より 。もし を欠く余原子が二つあれば、その和 を欠くが に矛盾。(全4958族+Fano閉包で機械照合:欠け数の分布 、2以上は皆無 ✓)

この定理が禁じているのは、 を欠く余原子が二つ以上あることだけである。裏返せば に入る余原子は高々一つで、余原子2つ以上からなるボトルネック は構造的にありえない。言えるのはここまでである。最上層に別の形のボトルネック(たとえば余原子1つと下層の集合を混ぜた )が存在しないことは、この定理からは出ない。五角形の違反が最上層の一つ下(フィルターの下端)で起きているのは、少なくともこの禁止則と矛盾しない。

第四部 教訓と方針の再設定

8. counting と matching の分水嶺

本稿最大の教訓を式の形で書いておく。五角形では:

Frankl 予想が要求するのは counting だけである。第2稿でマッチングに向かったのは「counting を示す手段として」だったが、五角形は手段が目的より真に強いことを教えた。倒れたのは手段の側であって、目的である Frankl 予想は無傷のまま未解決で残る。しかも舞台は、本体が二元補題で自明に落ちる最易クラスだった。強化・単射・構造保存の道はここで正式に打ち切り(文献上、包含単射版の既知の反例があるかの確認は残課題)、数える方法そのものに議論を戻す。

9. 結果の記録と次稿への計画

F-3.(第3稿)予想F2'は偽。反例=長さ5以上のサイクルの辺族の閉包(最小例:・16集合・除去極小・全数により台集合サイズ最小)、Petersen も反例。機構=「遠い辺の持ち上げ欠落+フィルター飽和」(鳩の巣原理による重複)。定理F3(余原子の対の和は 、各元の欠けは高々1、証明二行+全数照合)。教訓=counting と matching の分離;反例は Frankl 自明クラスに棲む。

次の課題:counting への直接の取り組み。(i) の等号達成51族と五角形型の「対称正則族」の構造論、すなわち頻度がちょうど・ほぼ に張り付く極値族の分類。(ii) 平均化の限界(平均集合サイズ なら自明、という古典事実の周辺)と、エントロピー論法(第1稿)への構造情報の注入。五角形が教えた「持ち上げの欠落」は、Chase–Lovett の近似反例が突く隙間と同じ形をしている。二つの方向の合流点を探す。

10. 結び

探索に出て、反例は見つかり、予想のほうが反証された。反証された予想から一般則と定理を回収して戻った。攻略ノートとして満点の成果である。それにしても五角形とは。正五角形は正多角形の中で唯一、対角線が黄金比を刻む図形であり、前シリーズでは Painlevé I の貼り合わせの整合条件に黄金比が現れた(第5部第1章)。偶然だろう。偶然だろうが、記録はしておく。偶然を記録しておくことの価値は、前シリーズの応答曲面(暗合がすべて等高線だった・第7部第7章)が教えてくれた。

三稿を終えての現在地を書いておく。第1稿でエントロピー論法の限界を自分の手で確かめ、第2稿で遺伝性から単射・マッチングの道へ入り、第3稿でその道が五角形に塞がれた。手元に残ったのは、限界の座標、小さな台集合の全数検証系、定理F1・F2・F3、そして「counting と matching は別物である」という一行である。Frankl 予想そのものは、45年前と変わらず未解決のまま目の前にある。数える問題に戻る。


参考文献

  • H. Bruhn & O. Schaudt, The journey of the union-closed sets conjecture, Graphs Combin. 31 (2015):総説(単射型強化の議論を含む;本稿の反例の既知性の確認先)
  • E. Knill, Graph generated union-closed families of sets(1994):グラフ生成族という古典的クラス(本稿の反例の棲息地)
  • P. Hall (1935):結婚定理
  • D. G. Sarvate & J.-C. Renaud (1989):強化予想が反例で反証される先例